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じ〜わわわわわわわわわわわわわわっわみょんみょんみょんみょん・・・寝苦しさのあまりパジャマのズポンを脱ぎ捨ててパンツ一枚で大の字になっているあたしの耳を覆い隠すような蝉の大音声でその日の朝は始まった。 「・・・ぐおおおおぉぉおおお!!」 ・・・みょんみょんみ、 たまらず、カーテンをあけ窓の外に目をやるとすぐそばの壁面に止まっていた蝉と思わず目があう。のも一瞬、ちちーとかいう感じで身を翻し飛び去る蝉。 寝ぼけ眼で額にふりそそいだ蝉のおしっこをぬぐいながらだんだんとあたしの血液は沸点に向かっていった。階下に目をやると、父と妹が自転車で出かけるところだった。あいかわらず妹はジャージ姿だった。 「おはよーお姉!畑にいってくるから。あとあと、一応女の子なんだから"ぐおおおおぉぉおおお!!"っていうのはないかと・・・」 背中で何か語る妹を無言で見送る。ふと壁を見ると真新しい蝉の抜け殻があった。 「おきてるー?さなさな。プールいこープール」 窓越しに部屋を覗き込む。さなさなの部屋はあたしと同じ2階にあるのだけれど、家がすぐそばに建っているのでうちのベランダから隣の家の屋根に飛び移るとすぐにさなさなの部屋までいけるのだ。これはこれですごく便利なのだけれど彼氏とか出来たら家に呼べないよなw 「あー、ちょっとまっててもうすぐ終わるからね」 「うそっ!?・・・それって夏休みの課題とかそーゆーのでは・・・?」 「・・・あーうん。7月中にやってしまおうかなって思ってて」 いたよ、いました、ここに!7月中に夏休みの宿題をやってしまおうとかそういうヒトが。しかもこんな早朝に。 「・・・やってる?・・・訳ないか(^-^;)」 「いやーわたしね朝弱いし」 「いや、それ関係ないし」 さなさなが用事を済ませている間に手早く朝食を済ませて荷物を纏める。おとーさんは家族みんなでご飯を食べたいなーって言ってるんだけど、ごめん。朝はムリムリカタツムリ。 そういうのは妹に任せている。そういえば、毎朝畑仕事も手伝ってるし、ホントエライよね。 ちなみに畑といっても別に家が農家というわけではなく、農家をやっている近所のおじさんにすこし土地を貸してもらって家庭菜園をやっている。この夏はおとーさんが美味しい野菜を沢山つくるとか張り切ってました。そーいえば、おとーさんは今日仕事やすみなのかなかな?水着を指先にひっかっけてくるくる回しながら、そんなことをぼんやり考えているとさなさながやってきました。 「おまたせー」 「今日はふーたも誘おうよ!」 自転車に跨って、かーっ!と照りつける日差しにゆがむ田んぼのあぜ道をいつものように進むあたし達。実は梅雨が明けてから毎日のようにプールに通っているのだ。夏といえばやっぱりプールだよね、だよね! 「いいけど、来るかなぁ(^^;)」 「なんかさー最近付き合いわるいんだよねーアイツ。前は毎日のように一緒に遊んでたのにさ」 「いやー中学生ともなるといろいろあるんじゃないかな(^^;)」 「え、なんか知ってんの?」 「そーゆーわけじゃないけど(^^;)」 「なんかね、引篭もりっていうのかな!かな!とにかく、よくないと思うわけよ」 「というかね、めぐめぐ有名人だし(^^;)」 「いやーわたしね朝弱いし」 「いや、それ関係ないし(^^;)」 「・・・てゆーかその顔文字やめて」
NAME : めぐめぐ Mozilla 1.8.1.2 / WinXP
TIME : 2007/08/05 (Sun) 15:44
ふーたの家は古くからあるという作り酒屋である。古い醸造槽を持つ大きな建物の外れに家が建ってるのだけれど、りっぱな瓦屋根と木造の大きな梁が江戸時代ごろからあるんじゃないかって思うくらいだ。ちょっとした町の観光名所にもなっている古い町並みの一角でもあり、ちょっぴり羨ましい。門の側に自転車を停め、中庭を抜けて玄関の引き戸を開けて土間に入る。この季節でもなんというか歴史の深みがそうさせるのか、薄暗い家屋の中はひんやりとした空気に満たされている。「あら、めぐちゃん。ふーたなら自分の部屋だよ」 おばさんに挨拶し、勝手知ったるなんとやらで家に上がりこんで二階の部屋に向かい、思いっきり扉を開けた。 「オッス!プールいこープール」 「!?っが!?」 珍しく机に向かって椅子の上に胡坐をかいていたふーたが驚きのあまりひっくり返りそうになってた。なにやら慌てて机の上を片付けている。 「え!?まさか夏休みの宿題とかしてたとか・・・うそ。ひどい!ひどいよふーた!信じていたのにぃ〜」 「ば、ばかちげーよ、っていうかシナつくるな!・・・っていうか勝手にひとんちに入ってくんなよ!なんべんいったらわかってくれますかこのやろう」 「まーまー、あたしとあんたの仲じゃんよ。それよりプールいこーよ。さなさなもいっしょだぜ!」 「はぁー!?なんでプールなんだよ小学生じあるめーし」 「ちょっとまえまで小学生だったじゃない。それに夏っていえばプールでしょ。水着姿も見せたげるよーほらほら制服の下は水着♪」 「なにをいってるんだお前は」 「ふーたくん、おはよ(^^;)」 「あ、さなえちゃん、お、おはよう」 嫌がるふーたを無理矢理引っ張り出したあたしはさなさなに向かって火星Vサインをして見せた。 --- わたし達の中学校のプールは夏休みの間一般生徒にも解放される。うちの中学だけでなく、近隣の学校のプールはたいていそうだ。小学校のときもよくプールに通ってた。 もちろん水泳部の部活もあるので、プールは半分に区切られている。傍らでプール遊びされていれば練習にも身が入らないのではと思うだろうが、大会で衆人環視のもとで競技することを思えば、こうした状況もよい訓練になるんだよーってむーちゃんがいってました。 「いやーやっぱプールだよな夏はw」 「・・・おまえ、さっきといってることがちがうぞ」 飛び込んだりもぐったり、実はいちばんはしゃいでいるのはほかならぬふーたであった。こやつめ。。。 さて、プールといえばやっぱり宝探しだよね。早速もぐってプールの底に転がってるあのグッピーラムネの親玉のような白い物体を探す。この消毒剤のブロックを宝物に見立てて、プールサイドにみんな並んでこれを投げて、一斉に飛び込んでいちばん最初に見つけたヒトが勝ち。単純な遊びなんだけどね。 「うーん、やっぱりコレじゃなんだか緊迫感がないわね。。。よし、今度はこれよ!」 「ってなんだよそれ!オレの自転車の鍵じゃねーか?」 「こっちの方が盛り上がるでしょ、いえーい!」 「いえーい!」 ちゃぽん。
NAME : めぐめぐ Mozilla 1.8.1.2 / WinXP
TIME : 2007/08/05 (Sun) 15:44
・・・結局、ふーたの自転車の鍵は見つからなかった。正確には中央の排水溝の檻の格子を抜けて下に落ち込んでいた。これはみんなには黙っていたことだが。「元気だせよなー自転車の鍵ぐらいわたしが空けてやるからさ」 「姉御、そーゆー問題じゃねーだろ。人としてどうよどうなんよそこんとこ重要」 「男がそんなことでぐちぐちいってんなよなー。心配すんな鍵はあたしが何とかするぜ!」 「・・・ほんとかよー」 「あたしが約束破ったこと、ある?」 「あるぜーあるぜー、無数にあるぜー、ミサイル駆逐艦ハルゼー」 「やーやー、ままま。とにかく今回の件はなんとかするし。そうだ、ミユキのお好み焼きおごったげるし」 「あ、いいねーわたしもお腹すいた」 自転車を置いたまま、あたしの自転車の後ろにふーたをのせ、学校を出たわたしたちは近所のお好み焼きのお店"ミユキ"へと向かった。 小さな街だけど、お好み焼きのお店は5軒はある。その中でもここはいちばんのお気に入りだ。学校からも近いのでたまに寄って帰ることもあるよ。 「じゃー全部入りでそば3玉」 「わたしは豚たまで」 「ほんとにオゴなんだろーな、おれも全部入りそば2玉」 「ケチ臭いわねー、あんたも3玉にしなさい。その代わり食べ切れなかったらあんたが支払い持つんだからね」 「あのー相変わらずめちゃくちゃなんですが・・・そこんとこどうなんですかこのやろう」 自分で焼くことも出来るけど、普通は焼いてもらうのが吉。ちなみにそばの玉数は基本的にいくらでも増やすことが出来るのだが、6玉を超えた時点で"まとまらない・・・"と店のおばちゃんからギブアップされてしまった。その6玉焼きは"めぐ焼き"と名づけてもらったのだが、その後だれからも注文はないそうだ。カウンターの熱せられた鉄板の上に焼きあがったお好み焼きが運ばれてくる。もちろん箸なんか使わず。コテで食べる。 「そーそー、週末のびしゃもんさまだけど、ふーたもいっしょに夜店まわるんだからね」 「いーけどまた去年みたいに一緒に川に飛び込むとか、そんなのイヤだからな」 「いつまでそーんな昔のこと憶えてんのよー、はふ、はふ、」 「そういえば、そんなことあったねー。子供が川に落ちてたところを助けたんだっけ。あの日のあと、あのコのお母さんがずっと探してたわよ、めぐたち」 「それより、あの後わたしは妹にこっぴどく説教されて。。。妹の浴衣だったからね」 「ていうか着物着て川に飛び込むなよ、オレの身にもなれ、ってゆーかソース付けすぎだこのやろう」 「アンタのにも塗ったげるわ!」 「や、やめ!」 ソースや青海苔が飛び散る主戦場を避けるように隅っこに退避した豚玉をゆっくりはふはふしながらそんなあたし達を眺めてるさなさなを横目でみながらわたしは次の悪巧みに思いをめぐらせていた。 夏休みはつづく。。。
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