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「ごめんねー。浴衣じゃなくって♪」 先に花火大会の場所に来ていたふーたたちと合流したわたしたちは差し入れのジュースとビニールシート等が入った荷物を渡して縁日回りを始めようとしていた。さなさながしきりに浴衣の件をふーたにあやまっていたのにはちょっと理由があったりするのだけれど、また"文字数が多すぎます!"と起こられちゃったりするので、その辺は割愛割愛。 まだ花火までには時間があるというのに、ここ的場花壇はすごい人で賑わっていた。こんなにどこから人が来るのだろうというくらいに。駐車場も大きくなく、とすればここにいる人はみな歩いてか自転車で来ているのであろうか。 「臨時列車とかでてるみたいだよ」 ふーたの傍らにいたメガネくんが教えてくれる。流石に一時間に一本しか走らない電車では都合が悪い。ちなみに彼あたしの日記には初登場だけれど、メガネくんもあたしたちの友達仲間で同級生だ。登場回数が少ない、というかほとんど無いのは大人の事情と察してくださいw 的場花壇は、毘沙門市にある海水浴場だ。海水浴場とはいっても、娯楽場・運動場・旅館を備えた古くからある複合的な施設でその歴史は大正時代に遡る。当時とある個人が私財を投じて建設したもので、その昔は一大リゾートとして賑わっていたと聞く。大正ロマンの漂う古めかしい旅館街に、屋台村のように道の両脇に並ぶ遊技場、その向うはそのまま海水浴場となっており、海の家や浜焼きの出店が立ち並ぶ。南国チックな木とかもあってマーライオンでも建てておきたいくらいだ。もっとも、当時の華やかな面影は今はほとんどなく、一部の施設を残してその他は町の幽霊スポットと化している。 それでも、この花火大会の日には道いっぱいに出店が立ち並び、スマートボールやら射的やら、輪投げなど当時から残る遊技場も店を開けて、往年の賑わいを見せていた。 ふーたの実家も地元の有志として花火に出資しており出店を出したりもしているので、そのお手伝いで先んじてこの場に来ているという訳だった。 「ねーねーみんなであれ観ない?」 「・・・あ、あれですか(^^;)」 縁日を見て回るあたしたちへ、メガネくんが指差したその先には"ちょー恐怖!てゆーかFBIに捉われた金星ガニを超極秘公開なんですが何か!!(一人300円)"と銘打たれた見世物小屋の天幕があった。表にはアタマの大きなミュータントがC字型の鍵つめで人間の首を絞めている絵が描かれている。あやしさ大爆発というかなんというか、超極秘で公開ってどいういことよ!?ってゆーかその看板はメタルーナ昆虫人じゃない!宇宙水爆戦じゃない!B級なめるな!なーんてつっ込みを入れるとメガネくんのスイッチが入ってしまうので、ここは我慢我慢。 「・・・っていうか入るの?」 「え、怖いの?」 「・・・い、いや。いやいやいやーん♪」 ・・・やばい、あたし今、目がきらきらしてるかも、やばいかも。 見るからにあやしいロイド眼鏡のサーカス団長のようなもぎりにお金を支払って天幕の中に入る。中はすっごく薄暗くて音の割れたスピーカーから"みょんみょんみょん"とかいう殺人光線みたいな音とか、"ぎゃー!""どっくんどっくん"とか、雰囲気満点の効果音垂れ流しになってますが何か。 「よーこそ!我が研究室へ!低脳なる猿どもよ!」 必要以上にいかめしい檻にシートが被せてあり、傲慢なそれっぽい○○○○科学者が天幕内の人に説明を始める。薀蓄に続いて檻の中の金星ガニをチラ見せし、博士が実験と称してうら若い露出度の高い女性のアシスタント(金星人という設定らしい)を檻の中に投下、なぜか興奮した金星ガニが暴れだし女性を襲いついには檻が壊れて観客が逃げ出すというストーリィ(これ子供むきじゃないでしょw)だったが、この金星ガニの出来がいい。素晴らしいアーマチュアで実際あのハリボテよりも本物っぽいんじゃなかろうか。 「うわー!びっくりした!」 みんなとぜんぜん違う感想を持っているあたしはさておき、あわてて飛び出してきたみんなはふと顔を見合わせて笑った。 花火の時間も近づいてきたので、浜辺の手ごろな場所に持ってきたビニールシートを敷いてみんなで座る。的場花壇の縁日や旅館街の辺りはあんなに人で溢れかえっているというのに、この砂浜に陣取っている人はまばらだ。今日は花火大会だっていうのにねw
NAME : めぐめぐ Mozilla 1.8.1.2 / WinXP
TIME : 2007/08/28 (Tue) 01:19
「タコヤキ買ってきたよ。食べよー」 「・・・あ、ああ」 「ん!?ふーたってばなにぼーってしてるんだか・・・さては、さっきの金星ガニのところのおねーさんのことでも考えてたんでしょ。すっごいボインボインだったしぃー。。。もぉいやらしい!」 「ば、ばか!な、な、な、何いってるんだよ」 「あんたにはボインボインなんて十年早いわ!」いいながら手にしたタコヤキを二つねじ込んでやった。 ヒュルルルルルルルル〜 ドンッ! あたしが馬乗りになってふーたの口にタコヤキをねじ込んでいると最初の花火が上がった。 毘沙門の花火大会は(他はどうなのか知らないけれど)すごいと思う。場所が場所だけにぜんぜん有名ではないけれど、一時間は絶え間なく花火が上がり続ける。みんなが"昇り竜"と呼ぶ螺旋を描いて打ち上げられるラストの花火などは特に圧巻だ。打ち上げられはじめた花火であたりは昼間のように明るくなり、赤、青、紫、白、黄色などの見目に華やかな光と音が乱舞する。浜辺は打ち合げ場所のすぐ近くなので、たまに火の粉が降ってくる。そういうのも大好きだ。 「きれい〜」 「今年もまたすごいね」 「・・・私たちだけでみてるの、もったいないわね」 そうなのだ。この浜辺から見るのが一番の眺めだというのに、私たちの周囲にはちらほらとしか人がいない。中には見知った顔もある。まぁのんびり見れるのでいいか。・・・いや。いやいや、この違和感。なんだろう・・・ 「うわぁ、今の近い〜!」 「花火どこから打ち上げてるんだろう?」 「的場山の頂上から打ち上げてるらしいよ」 的場山・・・山の頂上にはたしか、高灯篭があったはず。江戸時代には港を示すための灯台として機能してたけど今は使われていない。そういえば、その側に古い神社があったっけ。神社・・・そう、確か確か・・・なんてったっけ、そう確か 「三鬼神社!」 「え、何?」 「ごめん、用事思い出した!」 あたしは走り出していた。的場山に向かって。 旅館街に向けてのびる道を真っ直ぐ抜けた所に駐車場へ向かう道と交差するように小さな山道がある。それが的場山に通じる山道であった。 それにしても、気が付くと旅館街はもとより縁日や催し物会場は驚くほど閑散としていた。花火は夜空を七色に染め上げているが、そこにはそれを見上げるべき人影も無く、まるで、そうまるで のお祭り。 "花火打ち上げ 危険!立ち入り禁止" 山道の入り口にはロープが張られていた。しかしそんなもの躊躇いもせず跳ね上げて先へと進む。的場山の頂上で花火の打ち上げ?あんな樹木が密集した場所で花火の打ち上げなんかできるものか。なんで、どうして、どうしてだれも不思議に思わないんだろう、感じないんだろう。そして、あたしはあたしは。 あたしは何をしているんだろう。 あたまがぼんやりとする。ぼんやりしてすぐに自分が何をしているのか忘れそうだ。しかし、忘れない。忘れてあげない。 藪に囲まれた山道を進むと、古い石段を登る道が現れた。見上げると九十九折となった坂道の先に神社が見え、ぼんやりと明かりが見える。どこかで見たことがあるような、ないようなそんな景色。 息を整えながら、一つづつ石段を登ってゆく。確かに、確かにその山の頂上から花火は打ち上げられていた。あたりは舞い落ちる火の粉でさながら雪山を歩いているようであった。しかし、この火の粉はちっとも熱くなかった。むしろ冷たい。 最後の一段を昇り、古い神社の最初の鳥居をくぐる。そしてそこにあの少女がいた。
NAME : めぐめぐ Mozilla 1.8.1.2 / WinXP
TIME : 2007/08/28 (Tue) 01:19
きっとこれは夢だ。あたしはそう思った。神社の境内には数十メートルはあろうかという八・・・いや九つほどの光の大蛇がもつれ合い、のたうっていた。そしてその口から絶え間なく虚空に向かって火の玉を放っている・・・それは花火だった。 その光の大蛇の周囲には(おそらく的場花壇からここへ登って来た人たちであろう)無数の人々が溢れかえっており、人々は次々と大蛇の光の体に飲み込まれてゆくように見えた。 その光の大蛇に少女は跨っていた。少女に操られるかのように大蛇がのたうっている。 「・・・おねえちゃん」 「ごめんね、来ちゃったよ。ちゃんとさよならって言いたくて」 「・・・」 「あんたは、今夜帰っちゃうんだ」 コクリ。 「・・・オニがくるから」 「ら、来年もまた来るよね?すっごい夕立といっしょに来るよね!そしたらまた、」 「・・・それは無理。記憶には残らないから。憶えていようとすれば、町には居られない」 「どうして?」 「・・・そういう呪い(まじない)なの」 いつしか大蛇の周りに溢れていた人影は無くなり、いよいよその大蛇が一匹、また一匹とほつれてゆっくりと天を向く。そぞろに螺旋を描きながら。 「・・・もう行くから」 まって!・・・少女に向かって駆け出そうとした瞬間あたしは見えない壁に阻まれたように推し戻される。鳥居の向うに抜けられない! 「・・・最後の鳥居からこっちへは来れない」 「ま、待って!・・・こ、これ!」 あたしは急いでポケットの中のものを差し出した。それはあの宝物のヨーヨーだった。右手を少女に向かって真っ直ぐ差し伸ばす。
「・・・勝負、ついてない」 「今度会うときまでの貸しにしといたげる」 「・・・今度は、ない。だから」 「だから?」 わたしの宝物をあげる・・・ 少女の顔が、少女のその顔があたしの消された記憶から一瞬蘇る。 「お、お姉ちゃん!」 あたしがそう叫ぶと同時に、少女の跨った大蛇がひときわ大きな光を発して一瞬膨れ上がったかと思うともの凄いスピードで天に昇っていった。 すごく綺麗で力強い"昇り竜"だった。 思い出した。幼い頃、あの神社で転がった鞠を追っかけてわたしの替わりに川に落ちたのは、あれはあたしのお姉ちゃんだった・・・ 呆然とその場で立ち尽くすあたしの幼い記憶をかき消してゆくように最後の火の粉はいつまでもいつまでも降り続く・・・ただ、他の火の粉と違いそれはとても暖かかった。 毘沙門の花火大会は終わった。それは町の人にとって、夏の終りを告げるイベントであった。
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