ひところ『超伝奇バイオレンス』なるジャンルの小説が流行った時期がありました。怪奇や伝説の類に縁をなす奇怪な事件が発生し、その怪異の圧倒的な暴力を前に人々は蹂躙されるしかないのだけれど、伝説や外法に詳しい人物が現れてさらなる暴力でその怪異を解決するというジャンルです。超〜バイオレンスと名付けられているだけあって怪異による暴力が必要以上に凄惨だったりエロかったりするのがポイントでした。怪異に対峙する側も正義感だけで行動するわけではなくどことなく影のあるダークヒーロー。王のストーリーは最愛の人が怪異に遭遇し凌辱され、復讐のためにダークヒーローとなる、とかでしょうか。かつてはこの『超伝奇バイオレンス』にそれはもうどっぷりと嵌っていましたが、そういえば最近はこういう話をあまり読まなくなりましたね。現実世界が殺伐としすぎて、せめてお話の中だけでもほのぼのとしたいという潜在的な認識ができちゃったのかもしれません。
とある資産家の隠し子として生まれた兄妹、生まれてからこのかた父親とはあったこともなかったが、その訃報を受けて実家へと呼ばれる。紀伊山地の人里離れた山奥にある旧家の大豪邸で行われている葬儀に参列する兄妹だったが、葬儀のさなかにまるで神隠しにでもあったように姿を消す妹。警察の捜索にもかかわらず行方はわからずじまいだった。そしてその数か月後、兄は空港で偶然行方不明となった妹にそっくりの少女を見かける。思わず話しかけてしまう兄だったがその少女の身辺警護のSPに取り押さえられてしまう。少女は兄を一瞥しただけで行ってしまう。
納得がいかないまま少女の正体を調査すると、亡くなった資産家の後継者としてどこからともなく現れたということらしいことが分かった。真偽を確かめるべく少女の身辺を探るも、やくざに絡まれて叩きのめされてしまう。野垂れ死にしそうになっていた兄君だったが、目が覚めると見知らぬベットに寝かされていた。「気が付いたか」兄君に声をかけたのは長身モデルをほうふつとさせる日本人離れしたしかしどこか陰りのある美女だった。兄君がかぎまわる資産家にとある因縁を持つというその美女は、不思議な力を授ける代わりに兄君に資産家を誘拐する手伝いを依頼する。美女の語りによると、件の資産家は何世代にもわたり体を乗り換えて生きながらえているという…。
…とか、まあこんな話とか割と好きかも。
すっかり見かけなくなった『超伝奇バイオレンス』ですが、そういえばタイプムーンなんかは割とそれ系ですよね。箱にも伝奇活劇って書いてあるし。