「ゆるキャン」を見ているとキャンプに行きたくなるーというのはよく分かる。人ごみや虫が苦手なので冬にソロキャンプとかいいよね。私なんかこの時期とくにアレルギーがすごいので実際なんとなく厳しいとは思うのだけれど…。
頻繁にトレッキングに行っていた頃は山でキャンプ泊するぞっていうのを目標にしていたのだが「ゆるキャン」みてるとロードバイクで出かけてキャンプってのもありかも。というか普通に車で行ってもいいかも。
山登りとか全然してなかった頃にそういうのガチでやってる友達とよくスノボに行ってたのだけれど寝袋とか雪山装備とかあと山小屋とかも使わせてもらって便利だなぁと思ってた記憶ある。今思うと楽しい日々だった。楽しい日々といえば、高校時代に将棋の好きな友達がいて、なんとなく私も将棋のルールを知っていたものだから暇を見つけては半ば強引に目の前に将棋盤を持ってきて勝負を挑まれていた。最初は遊びで続けていたのだけれど図書館で将棋の本を見つけて矢倉穴熊とか戦法を試したりしていた。という昔話を「りゅうおうのおしごと!」を見ながら思い出す。
白鳥士郎さんのラノベではラジカルエレメンツが好きなのだがこれはこれで面白い。銀子さんが素敵。
将棋指しということで妄想。
しこたま酒を飲み、酔っぱらって目が覚めると四畳半の部屋だった。もはやレトロとさえいえる古めかしい窓を開けるとそこは水路。上下左右を見渡すと水路の両岸にはせせこましく建築が密集し上下左右に果てしなく続いていて、いまはなき九龍城を彷彿とさせる。水道の蛇口を捻って乾いた喉を潤しかったるく部屋の外に出ると鬼のような老婆(もしくは老婆のような鬼)が俺を見張っていた。外には出してもらえないようだが、渋って見せると顎で上り階段を指される。
階段を上ると建築物の中庭のような開けた場所があった。多少だが草木もあり公園のようになっていた。
その公園の真ん中に鬼たちの人だかりができている。…いや鬼だから鬼だかりか。近づいてみるとその輪の中でワンピース白まぶしい一人の少女が鬼と将棋を指していた。
少女は鬼のごとき形相の相手を前に一歩もひるまず淡々とだが力強く指してついには負かしてしまう。すると負けた
鬼はどこからか這い寄る無数の黒い影に飲み込まれて消えてしまった。周りを囲んでいる鬼たちは悔しそうに奇声を上げて少女の前に木札を投げ捨てるようにして散っていった。(後でわかったがこの木札はこの世界における貨幣のようなものらしい)
それからこの奇妙な世界での"鬼と将棋を指す少女"との不思議な生活が始まった。声を出すことができないのか少女は一言も言葉を発することはなかったが、見知らぬ異世界で右も左もわからない俺を世話してくれた。鬼たちからの話では、どうやら俺は賭け将棋の肩として少女が手に入れたものらしい。少女は決まって毎日一局鬼たちと将棋を指した。
将棋は全くの門外漢ではないが、そんな俺の目から見ても彼女の将棋はすざまじかった。物静かでクールな面持てとは裏腹に鬼気迫る指し手で連日挑戦してくる鬼たちに勝ち続けた。負けた鬼は決まってどこからともなく這い寄る無数の黒い影たちに千々にされ、それ以降その鬼を見ることはなかった。
将棋を指しおえたその少女は優しく哀しく俺に微笑みかけるのだった。
そんなある日、俺はちょっとした好奇心から窓の外の桟を伝って別の棟に行こうとして水路に落ちてしまう。奈落へと落ちるかのような落下感が果てしなく続き気が遠くなったとき、そんな俺を見つけた少女が発した絶叫はこの世のものとは思えない叫び声だった。
再び気が付いたとき俺は少女の膝枕に抱かれていた。俺も彼女もずぶぬれで憔悴した彼女の瞳をみて申し訳なく思うのだった。
そのせいなのか翌日少女は熱を出して寝込んでしまう。しかし、そんな日にも将棋を指しに鬼たちはやってきた。俺はちょっとした恩返しのつもりで少女を起こさないように部屋を出て、鬼と将棋を指すことにする。が、しかし所詮は素人、あっというまに鬼に追い詰められてしまう。あーこりゃまいったね、投了かなと思っているとき、突然横から将棋盤が蹴り飛ばされる。あたりに散らばるコマ。
肩で息をしながら鬼たちをにらみつける少女がそこに立っていた。
将棋盤をけ飛ばされて殺気立つ鬼たち。少女を口汚くののしりつかみかかる。制止しようと間に入った俺は逆にあっという間に鬼たちに腕を締め上げられ地に押し付けられてしまう。
それを観た少女は懐から鬼たちに包みを差し出し何かを交渉し始めた。
やがて少女と鬼の間に将棋盤が据えられコマが並べられてゆく。鬼たちの表情が歪む。飛車角駒落ちだった。
それでも少女は鬼気迫る勝負を見せたが、本調子ではなくじりじりと追い詰められてゆき、その時が来た…。
気が付くと俺は公園のベンチで酔いを醒ましていた。夢…だったのだろうか。時計を見るととうに終電の時間は過ぎていた。駅に向かって歩き出そうと立ち上がったとき右手に違和感を覚えた。
握ったこぶしを開くとそこには一枚の銀の駒があった。
これは俺が流川街で真剣の将棋指しになる前の話である。