忘却の彼方に
忘却の彼方というのは記憶の中からもすっかり消え去ってしまうとかそんな彼方。
小学校の頃、国語の時間に教科書に載っている地図を見て物語を書く、とかいう授業があった。そのほかのことは何一つ覚えていないけれど、この授業は今でも覚えているくらいなので当時の自分にとってはとても楽しい取り組みだったに違いない。
しかし、せっかく地図には火山やら大地の裂け目やらのアイコンが用意されているのに、それらをほとんど使わず、好奇心と冒険心に燃える少年たちがナチスの残党が戦後極秘に開発した空飛ぶ円盤の正体を追って地球の内部が空洞になっててその中心にある基地に乗り込むところで終わってしまうという「俺たちの戦いはこれからだ!」エンドの残念な内容だった。
本当はもっといろいろなお話が書きたかったが、作文の締め切りぎりぎりまで粘っていたので、みんなの作文をまとめて文集にする印刷作業を遅くまで残って手伝わされる羽目になってしまった。
また、同じ地図を見て級友が作ったストーリーのいくつかにも面白さで衝撃を受けた!…さすがに空飛ぶ円盤が出てくるよーなのはないが。
今ならばボーイミーツガールもしくはガールミーツガールのお話が書けるだろう。しかし、小学生にとっては女子と男子がケンカしながら仲良くなってゆくお話をみんなの前で読み上げるのはなかなかにハードルが高い。
例えば植民地を広げるために未開の島にやってきた貴族と兵士。島には古い民族の末裔がひっそりと暮らしていたが、兵士によってみなとらえられてしまう。その中に一族の姫がいて、貴族の息子がその少女に魅かれて家を裏切り少女を助け出す、とか。少年も貴族の本当の子供ではなく、実は昔皆殺しにした国の孤児だったり、島に残る古の遺跡の奥には古代魔法文明の遺産があったりとか…。
やや前置き長くなってしまったが、物語を考えるのには地図や舞台を考えたりすると想像力が刺激されるタイプなので、妄想遊びのために島の俯瞰図を描いてみる。レイゾンデートルが配備されている基地のある南の島、ホウライジマ。熱帯雨林のようにほぼ毎日夕方にスコールが降るが、植物層はジャングル、というわけでもない。
島は北側に広がる基地と南側の入り江の町から構成されている。昭和の町みたいな入り江の町だが、山を隔てた北側にはトレーシーアイランドを彷彿とさせるディストピア風の未来的な建造物と一部その廃墟が存在したりと、今の世界からはずっと未来の世界を思わせる。島の東側には海面上昇か地盤沈下で完全に水没した都市が広がる(学校の授業では”前のオルドバイ・イベントによって沈んだ”、と説明される)。
中央部の窪地には雨水がたまってできた湖があり、牧歌的な農村風景が展開。湖の水位は海水の潮位と連動して上下しており地下の洞窟によって海とつながっているといわれるが、湖自体は淡水湖。
アーデルハイドシンドロームを患ってこの島に連れてこられた少女たちは、ディストピア風の未来的区画にある居住区で生活し、毎日入り江の町にある学校まで通っている。交通手段として二両編成の電車とビル屋上駅と山頂をつなぐ持つロープウェイとがある。午前中と午後で授業⇔基地での訓練のシフトが組まれており、これが明確なチーム編成となっている。
ゲイトの兆候を捕捉すると空襲警報が発令され、当直組がスクランブル、他は精神汚染を避けるためにシェルターに避難する。マックスヘッドルームのような教師が彼女たちに授業を行う。
入り江の町は山の斜面に建物が密集し坂のある町で迷路のような多層構造になっている。海に面した通り沿いの駄菓子屋は少女たちが学校帰りに寄り道しアイスを買い食いする場所である。特に暑い日などはそのまま遠浅の入り江で海水浴に興じたりする光景も見られる。遊び感覚で、魚雷艇で沈んだ町まで遠征し、素潜りで旧世界の遺物をサルベージすることもある。
入り江の町には生活する人間こそいないが、電気、ガス、水道はもとよりコンビニやショップの服飾、雑誌や書籍、電化製品や新作のゲームに至るまで何処から供給されており、何不自由のない生活が送れるが、島で生活する人はこの島に連れてこられた少女たちだけであり、他はすべてメイドロイドと呼ばれる影のような行動的ゾンビである。
基本的にはレイゾンデートルを運用するための基地だが、レイゾンデートルを開発した基地でもあり、その過程で生み出された試験機や副産物も多く残されている。また、第一次世界大戦からの主だった戦闘機や先頭車両が世界より集められ研究された。一方島の北側では類人猿の目撃例があるなどわかっていないことも多い。
島に集められた少女たちはいずれも特徴的な性格を持った者たちばかりだったが、その中でも能力的に頭一つとびぬけていた零は周囲とうまくなじめないでいた。
そんなある日、入り江の町の沖に現れた空母から転校生がやってくる…という妄想。