Automobile Lolita
ジャグァ”E”タイプ、知ったのは「GT-Roman」だったりする。思えば子供の頃見た洋画の中に出てきていたような気もする。”D”タイプ程じゃないけれど、フロント/リアのタイア上部が流線型に盛り上がっているデザインは古き懐かしいスポーツカーのシルエットではなかろうか。
創始者ライオンズの「美しいものは売れる」という思想のもと、一代で英國高級車メーカーの座を手にしたジャグァ社。この”E”タイプをデザインしたマルコム・セイヤーはブリストル・エアクラフトからやってきたエアロダイナミクスの識者だった。航空機の技術者が自動車のデザインをするとこうなる、の典型だが、大戦後は軍需→民需転向という大きな流れの中でこういうテクノロジーミクスチャが数多く生まれていた。正にヒューゴー・ガーンズバックの描く未来を世界が夢見ていた時代だった。
(アヴェンタドールはステルス戦闘機のイメージだそうだが、実際にロッキード社のスカンクワークスの技術者がデザインしたというわけではない。航空機屋が車をつくる、てゆーところがミソ)
なんといってもロングノーズが素晴らしく美しいのだが、フロントが前方にこうぱかっ!て開くのがいい。エンジンの存在感がハンパないし、エンジンを下ろすとバードケージなどと呼ばれるチューブラーフレームがむき出しになりこうしてみると車って結構シンプルにできていると感じる。(さすがヴィンテージカーだけあってネット上にもリストア日記など写真つき解説付きで楽しい記事がごろごろしている。見ているだけでも相当に楽しい)
個人的にジャグァが印象に残っているのはかつてFISCO(富士スピードウェイ(現FSW))でグループCカーのレースを観に行ったときのことだろうか。V12を唸らせて紫色のXJR-12がカウルから火花を撒き散らしながら目の前を疾走する姿を今でも思い出す。生のレースもレーシングカーも初めての経験だったがレース場の広い空が印象的だった。
ちなみにスタンドで観戦するだけじゃなく、双眼鏡を持って一コーナーまで移動したり物販を回ったり、余興のショー(ドラックレーシングカーが走ったりする)やレーシングギャルを見て回ったりとレース観戦は一日中楽しい。
この”E”タイプもエセルドレーダ皇女所有のヴィンテージ(ジャグァはイギリス王室御用達(Royal Warrant)だしね)。アルミボディのライトウェイトをベースに保安部品も最低限、エンジンをミスリル製V12に積み替えて300英馬力を超える。リアにシリーズ1クーペの面影を残しているのはご愛嬌ということで。(勿論、ロードスターもかっこいいのだけれど)
イングランド北部では、殺人や強盗で生計を立て「オートモービル・ギャング」と呼ばれるアウトロー集団が大きな社会問題となっていた。彼らは深夜カフェにたむろしてカリカリにチューンしたオートモービルで暴走行為を繰り返す、まるでそれこそが自らのアイデンティティであるかのように。
列石事件で皇女所有のカントリーハウスに身を寄せていたルビィは暇つぶしにガレージに眠っていた古いジャグァを引っ張り出し、ガレージメイドとともにレストアしはじめた。フレーム、足回り、アルミの鏡面ボディにシルフの呪文を施しチェコにある魔女のガレージからミスリルのV12エンジンを取り寄せ、積み替える。トネリコの木製ハンドルを握り仕上がりを確認するようにアクセルを踏み込む。
「いい時間ね。行くわよ賞金稼ぎ」