観測者はいつか矛盾に気づく
PSY-CANO、サイカノ。
オーバーキネシスは因果律を破る能力という解釈を持ってきたけれど、何もない無から有を生み出すという能力ではない。この宇宙のどこかから力を得ている。ダークマターとか宇宙を満たす謎の質量とかそんなのもいいけれど、もっと観念的に。たとえば、このお話の中の能力者はこんな感じで理解している様子。
力の源、運動する力。地球の表面にいるわれわれはこうして立っているだけで物凄い速度で運動しているわけだが。赤道付近では1700km/h、公転速度ならば秒速約29.8km、さらにいうと太陽系が銀河を移動する速度は秒速約220kmなどともいわれるな。その銀河ですら宇宙の中ではさらなる速度で遠ざかっている。 例えば、こうした移動する力を別の力に変換できるとしたら、どうなるか。
オーバーキネシスはエネルギーをバイパスする能力。ミクロな世界ではすべての事象は確率的に起きていることが知られている。ここにある一つの量子が突如として銀河の反対側に移動してしまうことも確率的にはアリなわけだ。現実世界がそうなってしまわないのは、われわれの見ている世界のレベルではほとんどの事象が因果を踏んでいるように振舞っているからだ。
神はサイコロを振らない?否、否だ。オーバーキネシスは神の賽なんだよ。 宇宙に置けるエネルギーの総体が変わるわけじゃない。どこかにある力を持ってきているんだ、この力の源は。厳密に観測し測定したわけではないからなんともいえないが、超能力の行使によって地球の自転速度や公転速度に影響があることは知覚している。
わたしたちの存在が知られるとしたら、……そうね。天体素粒子物理学者とかかしらね。 さっきも言ったようにこの地球で観測される事象のうち、どうしても説明がつかないエネルギーの損失が、はじき出される。そのとききっとその物理学者はわたしたちの”能力”の存在を予見するんじゃないかしら。
……地球上で観測されるすべての物理的事象を緻密に監視し分析することで、地球の反対で行われる新型爆弾の威力やその技術力、原理すらも解明することが出来る。軍事目的であるエシュロンのシステムにこうした検出器のデータを収集し分析するネットワークも存在する。すなわち、高エネルギーガンマ線天文台、高エネルギー宇宙線観測所、地下検出器、ニュートリノ望遠鏡、重力波アンテナ、アインシュタイン望遠鏡など。
冷戦時代に萌芽した軍事目的の超能力研究の系譜は高エネルギー素粒子物理学に姿を換え世界を席巻する、という妄想。